「スカイライン」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは── 鋭い加速、GT-R、直列6気筒、ツーリングカーでの活躍……。 スカイライン=高性能セダン/クーペというイメージは、日本車ファンの中に深く根づいている。
しかしその歴史の最初期、スカイラインには“実用性”に振り切った派生モデルが存在していた。 それが、スカイウェイ(Skyway)──1959年に登場した、スカイラインベースのステーションワゴン&バンだ。
このクルマは、ただの“スカイラインの商用車版”ではなかった。 フルシンクロの4速MT、ダブルウィッシュボーン+ド・ディオンの足回り、チューブレスタイヤ標準装備…… その内容は、むしろ「高性能セダンをベースにした上質な商用車」だった。
1950年代末、日本の道を走る商用車はまだまだ粗削りで、乗り心地や装備にまで気を配る余裕はなかった。 そんな中、スカイウェイは「荷物も人も、快適に運べるクルマ」という、新しい価値観を持って登場したのだ。
この特集では、1959年登場のALVG-2型スカイウェイを中心に、当時の背景やスペック、筆者撮影による貴重な実車写真を交えながら、“スカイラインの裏側”に迫っていく。
1957年4月。 プリンス自動車工業が世に送り出した初代スカイライン(ALSID-1型)は、 当時の日本車としては異例の高級・高性能路線を歩んでいた。 直列4気筒の1.5Lエンジン、独立懸架サス、欧州的なスタイル── それは、“ただの国産セダン”とは一線を画す存在だった。
しかし当時のプリンスは、乗用車専門メーカーではなかった。 むしろ官公庁や企業向けの商用車(バン・トラック)にも強みを持つ総合メーカーだったのだ。
だからこそ、スカイラインが好評を博すると、 その高品質な設計を活かした商用派生モデルの企画がすぐに立ち上がった。 それが、1959年登場の「スカイウェイ(ALVG型)」である。
1960年登場のALVG-2型 スカイウェイ。 それは、商用車でありながら当時の高級セダン顔負けの装備とメカニズムを備えた一台だった。
🔧 搭載エンジン:GA4型 1484cc(OHV)
エンジン型式 | GA4型 |
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種類 | 直列4気筒 OHV |
排気量 | 1484cc |
最高出力 | 70ps / 4,800rpm |
最大トルク | 11.5kgm / 3,600rpm |
このGA4型は、スカイライン用GA30型エンジン(60ps)をベースに出力アップした高性能バージョン。 “荷物も人も運ぶ”商用車とは思えない70馬力
⚙️ トランスミッションと駆動系
変速のたびに「ガリッ」とくるノンシンクロが主流だった1950年代末、 スカイウェイはスムーズなギアチェンジが可能なフルシンクロ機構を商用車にいち早く導入。 これはプリンスが商用車でも“乗用車のような快適さ”を目指していたことの表れだ。
🛞 サスペンションとタイヤ構成
このサスペンション構成は、“スポーティセダンのスカイラインと同じ”。 快適性と操縦安定性を両立しながら、後輪には荷重をしっかり受け止めるド・ディオン方式を採用していた点も注目だ。
つまりスカイウェイとは、「荷物も積めるスカイライン」ではなく、「走れる高級バン」だったということ。 その思想は、今の商用車とはまったく違う価値観に支えられていたんだ。
スカイウェイ(ALVG-2型)は、見た目からしてただの商用車とは一線を画していた。 スカイラインの上質なスタイリングをベースにしながら、ワゴン/バンとしての実用性を丁寧に重ね合わせていたのだ。
🚪 “セミ4ドア”構造の先進性
このモデルの大きな特徴が、左後席側にもドアを設けた“セミ4ドア”レイアウト。 商用バンに多く見られた3ドア構成に対し、後部座席へのアクセス性を高める工夫が施されていた。
これは、乗用ユースも見据えた発想の現れとも言える。 「荷物も人も、どちらも快適に」──そんなプリンスの理想が、このディテールに詰まっていた。
📐 積載性とボディ設計
ボディ後半は完全な商用スタイルながら、前半はスカイライン譲りのデザインがそのまま。 このツートーン的設計が、スカイウェイを「ただの道具に見せない」美学を演出していた。
🧳 ピックアップも展開(参考)
ちなみにスカイウェイには、同じALVG型プラットフォームを使ったピックアップ仕様も存在していた。 こちらはまた別記事にて特集予定だが、「高級トラック」としての可能性を感じさせる面白いバリエーションだ。
現在、1959〜60年式スカイウェイ(ALVG-2型)の現存個体はごくわずか。 そのなかでも、スカイライン博物館に展示されている一台は、ほぼオリジナルの姿を保つ貴重な車両として知られている。
筆者は現地を訪れ、この車のディテールを記録した。 ここからは、5枚の実車画像を通して、“プリンス流ステーションワゴン”の真価を視覚で味わってほしい。
この車は“レア”であることに加えて、 「スカイラインが持つ設計思想の広がり」を物語る1台だ。 スポーツセダンだけではない──プリンスの技術は実用車にも妥協がなかったということを、肌で感じる展示車だった。
スカイウェイ(ALVG-2型)は、「スカイライン=スポーティセダン」というイメージとは異なる、 もうひとつのスカイラインの姿を体現したモデルだった。
ダブルウィッシュボーンにド・ディオン、70psを発生するGA4型エンジン、 フルシンクロ4速MT、チューブレスタイヤ…… そのスペックは、当時の商用車の域を軽く超えていた。
見た目は大人しくても、中身はスカイラインと同じ思想で作られた高級バン。 「荷物も運べる、快適で上質な一台」──それがプリンスの答えだった。
そして今、その姿を実際に目の当たりにすると、 スポーツ性の陰に隠れていた“実用の美学”が、静かに浮かび上がってくる。
商用車でありながら、細部まで“真剣に作られた”ことが伝わってくる。 それはプリンスというメーカーの誇りであり、 スカイラインという名を冠する車に対する責任だったのだろう。
スカイウェイ。 それは、確かに存在した。 そして今も、アーカイブのなかでその意義を語り続けている──。